JC09 Art and Textile Workshop [毛織物] × セシリエ・マンツ

R&D 田渕智也

高い染めと織りが実現する究極のシンプリシティ

ホームスパンとは、イギリス生まれの毛織物。家庭(home)で紡がれた(spun)ことからホームスパンと呼ばれている。
日本にホームスパンの技術が入ってきたのは明治時代。官服用の毛織物の需要が増大したため政府は羊毛の国産化に着手した。農村では副業として羊の飼育の推進、羊毛加工講習会など牧羊振興策が行われるようになり、ホームスパンは全国に広まっていった。しかし戦後の物資不足や工業化の波、生活様式の変化などにより衰退し、現在も産業として残るのは岩手県のみとなった。
Art and Textile Workshopの舞良雅子は、ホームスパンの技術を継承し独自のテキスタイル作りに挑戦している作家。タッグを組むのはデザイナーのセシリエ・マンツだ。素材が違っても、ものごとの本質を見極める視点は同じ。マンツは岩手にあるホームスパンの工房を訪れ、製作工程を観察し、新たな可能性を探るべくデザイン案を模索した。
通常、ホームスパンというと、デコボコとした厚みのある布をイメージするが、マンツが提案したのは、向こうが透けて見えるくらいに薄い、ふんわりと空気をはらむ大判。サイズは1900×1350、1900×700、950×700の三種。ホームスパンは手織機で織られるため、幅に限りがあり、大判の布を織るのは難しい。そこでマンツは、2枚の布をニードルパンチ(繊維をフェルト状にしてつなぐ手法)の技術を利用。職人の技術を最大限に活かすデザインを提案した。ホームスパンは、ファッションにとどまらず、ベッドやソファにもかけられるインテリアへとフィールドを広げたのだ。

舞良の仕事場を訪れ、素材や技法についてリサーチを進める。

プロセス1

たて糸によこ糸を通していく道具、杼(ひ)。

プロセス2

織り工程を見学。

プロセス3

色とりどりに染色されている。

プロセス4

ホームスパンの原材料である羊毛。

プロセス5

カーディングとよばれる繊維の向きを揃える工程。

プロセス6

2種の毛を混紡している。

プロセス7

舞良雅子Masako Mouryou (Art and Textile Workshop)

大学で染織を学んだのち、岩手県の地場産業として受け継がれているホームスパンの技術を習得。現在は宮古市と盛岡市を拠点に東北という地域性を尊重しながら、染色・紡ぎ・織り全ての工程を担うつくり手として活動している。併せて、毛や繭の段階から、造形的な可能性を追求する作家としても活動。本プロジェクトではつくり手として参加している。

セシリエ・マンツCecilie Manz

デンマークとフィンランドで家具について学んだのち、1998年にコペンハーゲンにて自身のスタジオを開く。現在、フリッツ・ハンセンの家具をはじめ、ガラス製プロダクト、アクセサリー、照明機器、ファブリック製品など幅広い分野で活躍中。人々の日常生活に於いて求められる機能性と詩的な美しさを調和させたプロダクトは高い評価を受けている。

R&D 田渕智也Tomoya Tabuchi

1974 年、栃木県生まれ。桑沢デザイン研究所を卒業後、家具メーカー入社。
インハウス・デザイナーとして、企画、デザイン、商品開発を担当する。
2010年、office for creationを設立。フリーランスで活動を開始。
家具などのプロダクトデザインを中心に、グラフィックデザインやアート・ディレクションも手掛けている。

舞良雅子
舞良雅子
セシリエ・マンツ
セシリエ・マンツ
R&D 田渕智也
R&D 田渕智也