JC07 藤里木工 [金属加工・家具製造] × ロン・ジラッド

R&D 田渕智也

精緻なものづくりの精神を、異なる角度で引き出す。

岩手県奥州市は、ケヤキの名産地として知られ、古くから漆や鉄工が盛んな地域として知られる。こうした環境のなかで、日本人の生活様式に合う家具として生まれたのが、岩谷堂箪笥。豪快なケヤキの目を際立たせるように塗られた漆に、鉄を鏨(たがね)で打ち込み、美しいレリーフ状の図柄を際立たせていく飾り金具が最大の特徴だ。
装飾的様相の強い飾り金具ではあるが、元来は引っ越しなどの移動時に、ぶつけたり落としたりしても傷つかないように家具を補強しようと、機能面を重視した目的でつけられたもの。外枠や扉、引き出しの四隅に打ち込まれている様子を見ると、その理由も容易に想像が付くだろう。
ジャパンクリエイティブは、箪笥を覆い隠すほどに巡らされているこの金具に特に注目。質実剛健な木工技術はそのままに、現代の生活様式やインテリアに見合う新しい金具を開発することこそ、改めて世界に発信すべき藤里木工の技であると信じ、ロン・ジラッドとともに、岩谷堂箪笥のさらなる可能性を模索しようと試みた。
難しかったのは、通常は平面的に仕上げる金具を、手打ちの手法そのままに、立体物としてつくらなければいけなかったこと。藤里木工の及川孝一は、自身が持てる技を最大限に活かしながら試作を繰り返し、彫刻的な美しさすら感じさせる新しいプロポーションと魅力を持つ金具を見事完成へと導いた。
素材も現在の岩手を代表する木としてクルミを選択。細やかな木工技術を活かした岩谷堂箪笥が得意とするからくりも、ロン・ジラッド独自の現代的表現が加味され、引き出しの仕掛けや金具の在り方にしっかりと反映されている。

80種類の鏨(たがね)を使い「金具」を製作。

プロセス1

金具は岩谷堂箪笥の格調をより一層高める。

プロセス2

12世紀から続く伝統の技と美意識について、時間をかけてリサーチ。

プロセス3

「細工」と呼ばれる熟練の技について質問攻め。

プロセス4

元来の金具はレリーフ彫刻のように叩き出す繊細な図柄が特徴。

プロセス5

手打ちの技で、棒状の鉄にねじりを加えた複雑な形に仕上げる。

プロセス6

叩き出してつくったとは信じがたい、滑らかな仕上がりの金具。

プロセス7

藤里木工Fujisato Woodcraft

1961年及川孝一が岩手県奥州市に創業。三尺×三尺×五尺の整理箪笥を基本形に、丁寧に重ねた漆塗り、一棹に60〜100個の手打ちによる飾り金具を取り付けることで独特の工芸価値を持つ岩谷堂箪笥を手がける。通常は分業で進む木工、漆塗、彫金の全工程を自社内で一貫して行い、その丹念精巧で剛健な製品技術は、国内外に広く知られている。

ロン・ジラッドRon Gilad

1972年イスラエル テルアビブ生まれ。ニューヨークで活動後、2012年よりテルアビブを拠点に活動。幾何学的なモチーフを多用し、モノのボリュームに対する独特なバランス感覚による抽象的な趣と機能性を併せ持つ、清新なかたちのデザインが特徴。人々の生活に馴染むものをデザインすることに徹している。

R&D 田渕智也Tomoya Tabuchi

1974 年、栃木県生まれ。桑沢デザイン研究所を卒業後、家具メーカー入社。
インハウス・デザイナーとして、企画、デザイン、商品開発を担当する。
2010年、office for creationを設立。フリーランスで活動を開始。
家具などのプロダクトデザインを中心に、グラフィックデザインやアート・ディレクションも手掛けている。

藤里木工
藤里木工
ロン・ジラッド
ロン・ジラッド
R&D 田渕智也
R&D 田渕智也